電車の席における「ダチョウ倶楽部ごっこ」問題について

ゆらゆらと電車に揺られ目的地へ。しばし立っていたところで、目の前の席が空く。まだまだ目的地までは遠い。

ふと腰掛け再び走り出す鉄の箱。次の駅に着き流れ込んでくる新たな乗客。目の前に妙齢の女性がやってくる。まだまだ元気な私は、席を譲ろうと立ち上がり、その麗しき年上の女性に声をかける。

「お席どうぞ」

しかし、私の申し出に対して、そのご婦人が返した言葉は、「いやいや、大丈夫ですよ。お座りになってください」だった。

もう一度、声をかける。

「すぐ降りますので、どうぞ」

女性は最大限の会釈をしながら「あら申し訳ないわ」と座る。

一度とは言わない。こんなやりとり、過去に何度もしてきた。だからこそ、席を譲るという行為がどんどん億劫に感じるようになっていく私がいる。

多くの若者は、幼き頃からそれなりの年齢の方には席を譲るように教わってきた。親かもしれないし、先生かもしれないし、はたまたYouTuberからかもしれない。いずれにしても、それなりに身体能力が衰えてきたであろう年齢の方が目の前に立っていたら、席を譲るのは、大人の階段の1ステップだ。

譲る側が幼いときは、譲られる側も「あら、ありがとうねー。ぼく、いくつ?」みたいな言葉を返し、これぞジャパンのお・も・て・な・し精神だと言わんばかりのほっこりした光景が繰り広げられる。

しかし、譲る側が10代後半ぐらいにさしかかってくると徐々に冒頭のような「いやいや……大丈夫です」と断られる場面が増えてくる。

もちろん、健康のために立っているケースもあるだろうが、譲った側は断られるとバツが悪い。ほんとは座っていたい……そんな気持ちを抑え、小さい頃から当たり前だと教わった「席を譲る」を、疑うことなく実行した。それなのに……それなのにだ、それが無残にも断られてしまう。

最近の若者は席を譲らない!!

と、ご意見番が「喝!」を入れる場面を時折見かけるが、そうなってしまったのには、もしかしたら、こうした譲ったはいいが断られたという経験があるのではないだろうか。譲る側は“見知らぬ相手への声かけ”という、勇気を振り絞る行動をしたのに、それが無残にも断られてしまうのは、あまりにも酷だ。

席を譲るのが上手い男性は、ナンパも上手い。そりゃそうだ。1人、2人に断られても折れない心を持っているからだ。しかし、多くの若者はナンパは得意じゃない。そんな毛虫みたいなマイハートは持っていない。

だから言いたい。席を譲られた側もスマートに「あら、ありがと」と美空ひばりかのごとくエレガントに受け入れてほしいのだ。

レディファーストも同じだ。日本の男性は「レディファーストが下手だ」なんて声があるが、むしろレディ側が慣れてないように感じる。

レディファーストのある国からやってきた女性は好意の受け方が美しい。さっと先を譲ると、ニコッと笑い先を行く。しかし、慣れてない日本人だと「いやいや……お先に」なんて感じで、ダチョウ倶楽部ごっこがはじまってしまう。

差し出された好意を受け取るのが慣れてない人にとってはハードルが高いかもしれないが、ガミガミ爺さんに「最近の若者は……」と言わせてしまう心地よくない世界より、みんながほっこりするような世界の方が良い。だから、譲られたら、ニコッと笑い、そのままスマートに受け入れてほしい。

私はいま「席を譲ろう」を広めるより「譲られたらスマートに受けよう」を広めたい。そう、南の一つ星を見上げて誓った。

黒宮 丈治
1978年生まれ、福岡県出身。書き手・編み手・企手。30種以上の職を渡り歩いた後、フリーライター/プランナー業をスタートし、現在は編集者としても活動。ライターとしては取材記事を中心に、エンタメからビジネスまで幅広く執筆。最近はラジオディレクターとして、音楽番組なども担当中。